声が聞きたくて。








キーンコーンカーンコーン…。


ホームルームが終わり、15分間の休憩時間に入った。



再び教室がたわいない会話で溢れ出す。


活気づいた教室の隅、私はまた、スマホを意味もなくいじっていた。


「……」


とくにスマホを触る意味なんて無いのだけれど。





その時、誰かが私を呼んだ。


「高宮さん」


振り返ると、そこには小麦色で健康的な肌。


短く揃えたツーブロックの黒髪、鼻筋が通った顔、穏やかな目。


制服を着こなした男子生徒が一人、私を見て微笑んでいた。



…誰………? この人………?



咄嗟に私は、緊張状態になる。


喉がカラカラに乾く。心臓がドクンと波打つ。自分の視線が足元に落ちる。



「俺、柊ハヤトっていうんだ。よろしくね」



………え、…あ……。




何か話すんだ、私。

“よろしく”でも、何でもいいから。

話せ、私。




何も言わない私を、柊くんが首を傾げて見つめている。


私は足元に視線を落としたまま。唇をパクパクと金魚のように動かして、戸惑う。




…ダメだ、話せない。




しばらくして、俯く私のそばから柊くんの気配が消えた。


……あ、行っちゃった…………。


馬鹿だ、私。


なんで声出せないの、私。





私は自分を責め立てるように、唇をギュッと噛んだ。



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