声が聞きたくて。
◇
キーンコーンカーンコーン…。
ホームルームが終わり、15分間の休憩時間に入った。
再び教室がたわいない会話で溢れ出す。
活気づいた教室の隅、私はまた、スマホを意味もなくいじっていた。
「……」
とくにスマホを触る意味なんて無いのだけれど。
その時、誰かが私を呼んだ。
「高宮さん」
振り返ると、そこには小麦色で健康的な肌。
短く揃えたツーブロックの黒髪、鼻筋が通った顔、穏やかな目。
制服を着こなした男子生徒が一人、私を見て微笑んでいた。
…誰………? この人………?
咄嗟に私は、緊張状態になる。
喉がカラカラに乾く。心臓がドクンと波打つ。自分の視線が足元に落ちる。
「俺、柊ハヤトっていうんだ。よろしくね」
………え、…あ……。
何か話すんだ、私。
“よろしく”でも、何でもいいから。
話せ、私。
何も言わない私を、柊くんが首を傾げて見つめている。
私は足元に視線を落としたまま。唇をパクパクと金魚のように動かして、戸惑う。
…ダメだ、話せない。
しばらくして、俯く私のそばから柊くんの気配が消えた。
……あ、行っちゃった…………。
馬鹿だ、私。
なんで声出せないの、私。
私は自分を責め立てるように、唇をギュッと噛んだ。