声が聞きたくて。
救世主
◇
キーンコーンカーンコーン…。
6時間目の終了を知らせるチャイムが校内に鳴り響いた。
静かだった校内に賑やかな声が戻る。
スクールバッグに机の中の荷物をすべて詰め込み、
私は足早に教室を出た。
玄関で靴を履き替え、校門をくぐって学校を出る。
俯きながら家までの道を歩いていると―――――ドンッ。
誰かとぶつかってしまった。
…あ、いけない。
「痛ってぇーなぁ」
顔を上げると、
そこには金髪の髪の毛が眩しい、大柄な男の人が立っていた。
年齢は40代後半くらい。
首元に龍のタトゥーをいれていて、
明らかに“ヤクザ”だった。
すいません!
普通なら、謝って足早にその場を立ち去るだろう。
けれど、
私は、謝ることもできずに、
男の人の目を見つめたまま動くことができなかった。
緊張して動くことができなかったんだ。
謝ることができなかったんだ。
「ごめんなさいの一言くらい言えば?」
男の人はそう言って、私をギロリと睨んだ。
その目は
獲物を見つけたときの肉食動物みたいだった。
「………っ」
恐怖で後ずさりしてしまう、私。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
足がガタガタと震える。
口の中がカラカラに乾く。
謝れ、私。
“ごめんなさい”って謝るんだ!
けれど、やっぱり声は出なくて。
口を開けられなくて。
「謝れよ!」
男の人がそう叫び、私の右腕を掴み上げた。
「――――っ!」
男の人のとんでもない握力に、思わず泣きそうになる。
痛い…!
痛い………っ!
その時―――――――「やめてください!」
後ろで誰かが叫んだ。
その声に、私と男の人は振り返った。
そこには―――――柊くんが立っていた。
「彼女はきっと悪気があったわけじゃないんです。
だから、やめてあげてください。お願いします」
柊くんは正々堂々と言い張って、男の人に深々と腰を折った。
「………わかったよ」
彼の説得に気圧されたのか、
男の人は、私の腕を放してどこかへ走り去っていった。