声が聞きたくて。





「大丈夫か?」


柊くんはそう言って、私の右腕を優しくさすってくれた。


「怖かっただろ…。もう大丈夫だから心配すんな」


「……………」



どうして柊くんは、こんなにも優しいんだろう。



私なんかに優しくしてくれる必要なんてないはずなのに…。




「家まで送るよ」


ほら。優しいんだ。胸がギュッと締め付けられるんだ。


“ありがとう”の一言でさえ言えない自分が恥ずかしい。



柊くん、言葉を話せなくて、ごめんなさい。



「ほら、ボーッとしてないで早く。日が暮れちゃうよ」


我に返ると、柊くんは私から数メートル離れた場所にいた。



空を見上げると、蜜柑色に染まっている。


早く帰らないと。







結局、柊くんに家まで送ってもらった。



「じゃ、また明日」



私を家まで送り届けると、背中をくるりと向けて行ってしまう彼。






ありがとうございました。



どうしても感謝の気持ちを伝えたくて、背中を向けて歩く彼に、私は深い深いお辞儀をした。






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