僕だけの素顔


「きゃ! ちょっと、急に何すんの!? メガネ返してよぉっ!」

「い・や・だ」


 嫌がる彼女を無視して、メガネを高々と掲げる。


「も~うっ、何も見えないのに~」


 彼女の視力は、メガネがないと歩けないほど悪い。


「ハハハッ。ぴょんぴょん跳ねたって無駄無駄。俺の方が20センチも背が高いんだから」


 メガネを取り返そうと、必死になってる姿も萌える。

 俺って、Sだったんだな。


「やっぱ私……コンタクトにするっ。そうすれば、こんなイジワルもされないしっ」


 若干ふくれ気味の彼女。

 それでも、


「ダメ」

「何でよ?」

「さっきも言ったじゃん。メガネかけてるのが好きだって。
 それに……お前の可愛すぎる素顔は、俺だけ見れればいいの」


 見えないことをいいことに、不意打ちで唇を重ねた。

 彼女の顔が、赤に染まった。


「……もうっ……メガネ……返してっ」

「ダメ」

「……私だって、ちゃんと顔見てからキスしたいのに……自分だけズルいっ。早く返してっ」

「………………絶対ダメ」


 今の彼女のセリフで、俺まで顔色ヤバくなった。

 悪いけど、もうちょっとだけ見えないままでいてくれる?

 俺の顔色が戻ったら、ちゃんとメガネを返すから。

 そしたら今度は──

 ちゃんと顔が見える状態で、キスしような。



~おしまい~

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