奏でるものは~第1部~
「ただいま」
大きな玄関を開ければそこでクリスタルの飾り物を磨いていたお手伝いの川野さんが手を止めて振り向いた。
「歌織さん、お帰りなさい。…何かありました?」
私の表情がいつもと違ったのか、笑顔で挨拶したあと、表情を堅くして問いかけた。
「いえ、お父様とお母様は?」
私が聞くと、珍しい問いかけに、眉をひそめながらも
「今日は、お戻りとのことですよ」
と教えてくれた。
「ありがとう、二人が戻ったら知らせてね」
と笑顔で言うと、わかりました、と微笑んで仕事に戻った。
両親の仕事が忙しいのは承知している。
海外出張も多いのに、今日は二人とも帰ってくる。
―――決戦だわ。チャンスの日。
部屋に向かいながらひとり破顔した。
夕食の時間になり、食堂の広いテーブルで姉と向かい合い食べていると、玄関で「お帰りなさい」と言う声が聞こえた。
川野さんが、そっと近づき、「お二人でお戻りです」と知らせてくれた。
姉と目が合う。
――言うのね?
という少し眉を上げた目線に、うなずく。
食事をほとんど食べ終えていても、両親が帰って来たら用事がない限り両親の食事が終わるまでテーブルにいることが当たり前の私達は、そのまま待っていた。
兄もいるが、仕事で帰っていない。
今日、帰って来るのかも知らないが、それもいつものこと。
ほどなくして、スーツからシャツとカーディガンに着替えた両親が入ってきて、穏やかに会話をしながら、私は、食事が終わるのを待っていた。
そう、待っていた。
このあと、私の決意を伝える、その時を待っていた。
両親の食事が終わり、父はビールが残っているコップを手に、隣のリビングに移り、くつろごうとしていたので、父についてリビングに行った。
母も紅茶を持ち、そのあとに続いてリビングに入り、3人掛けソファーに座る父の隣に座った。
二人で何か話そうとしていたが、私が話し始めた。