奏でるものは~第1部~


進学の話を両親としてから、 3日経った、日曜日の朝、両親に呼ばれた。


「歌織」

父は明るい、いつもの表情で私の名前を呼び、両親の座るソファーの向かいに座るよう促された。


「凌凛館、受験してみなさい」


父の言葉に思わず笑顔になって、はいっ、と答えた。


「ただ、もし不合格だった場合、桜輪学園にいってもらう。
これでいいな。

受験に楽器演奏がいるみたいだし、楽器を用意するときや、ひとりで出来ないことは早めに相談しなさい。

それから、今は西田(ニシダ)歌織で学校にいってるが、受験や進学の時の苗字については、悪いが私達できめさせてもらうよ」

「はい」



本名の西田(サイタ)は、従兄弟が小さいときに営利誘拐にあい、その後から従兄弟や私達は学校で、ニシダと名乗っている。
学校も了承しているが、学校の友達のほとんどが私達の本当の名前は知らない。

「私に引き継がれなかった母の血が歌織に継がれたのね。
おばあ様も実は喜んでるのよ。
悔いがないように頑張りなさいね」

父と母の言葉に喜びが沸き上がった。

「はい!ありがとう」

感謝しかない。

今でも日本舞踊の月謝や、名取の時のお礼のお金、舞台出演料、ビアノ、琴の習い事、その楽器にかかる費用。
身内が家元でも変わりはない。

それらにかかる金額を出してもらい、学費も公立校よりはるかにかかっているにも関わらず、外部進学なら、また一から入学金である。

自分が好きな芸事にはお金がかかる。

楽しいだけで、わがままでやっているのに。
でも、やっぱり曲げられない自分のやりたいこと。

理解してくれることに、感謝しかない。


そして、その日は珍しく、母と姉と買い物にいき、楽しい休日になった。


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