眠れぬ王子の恋する場所


踏み入れた途端、目の前に広がったのは、ガラス越しの中庭だった。

建物の中心が全面をガラスで囲まれた四角い空間になっていて、そこに庭園が造ってある。

黄色い葉の樹や、白く細かい花のついた植木が綺麗に植えられていて……こんなマンションが本当にあるのか……と呆気にとられてしまった。

ガラス越しに庭園を楽しめるように置いてある皮のソファも高級感に溢れていて、それを横目に眺めながらエレベーターに乗り込む。

操作盤の数字を押し、数十秒後にドアが開いたのはいいけれど。
視界に映った広く長い通路にクラッとしてしまう。

こんないいマンションに住んでおきながら、ホテル暮らしとか……お金持ちの考えることはわからない。

外壁と同じ色の絨毯の上を歩き、久遠さんの部屋の前で足を止める。
隣の部屋との玄関の間隔が広いし、相当な部屋の広さがあるんだろうなぁと、もう驚くのも疲れてげんなりしながらインターホンを押そうとしたとき、中からドアが開けられた。

「あ……大丈夫ですか?」

現れたのは当然だけど久遠さんだ。
いつもはYシャツ姿がほとんどだけど、黒いTシャツにグレイのスウェット姿だった。

その顔色はあまりよくないし、ダルそうにも見えるけど……いつも快調って感じでもないから見分けが難しい。

それでも、いつもより不調そうかな?とツラそうな呼吸に思う。

久遠さんはドア枠にもたれかかりながら、私をじっと見下ろし「大丈夫なわけないだろ」と不満そうなトーンで言う。
熱のせいか声が掠れていた。

「おまえの風邪だろ、これ」
「だから、移っても知らないって言ったじゃないですか」
「勘弁しろよ……。一日で治したおまえみたいに頑丈にできてねーんだから」

嫌そうな顔で言った久遠さんが、「いつまでそんなとこに突っ立ってんだよ」と私の腕を掴みぐいっと引っ張る。



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