眠れぬ王子の恋する場所
腕を掴んだ久遠さんの手が熱くて、何度なんだかを聞こうとして……言葉を呑みこんだ。
久遠さんが閉めた玄関ドアに、異常なくらいの鍵がついているのが見えたから。
おそらく、元からついていた鍵は、上下にあるふたつと、ドアガードがひとつだ。
久遠さんの部屋のドアには、それに加えて電子錠がひとつと、暗証番号を打ち込むタイプのデジタルロックがひとつ、そして多分、後付したシリンダーがひとつついていた。
つまり、ドアガードを合わせて六個のロックがついている状態だ。
このマンションは、決してセキュリティーが甘いわけではない。オートロックだったし、エントランス前にもマンション内にも防犯カメラが何か所かに仕掛けてあった。
それに、オフィスビルばかりが建ち並ぶなか、この高級マンションはとても目立っているし、こんなところに忍び込もうとする泥棒はいなそうだ。
周りがオフィスばかりなだけあって人通りも多いから、人の目もある。
それなのに、こんなたくさんの鍵をつける必要があるんだろうか……。
すべての鍵を施錠して最後にドアガードを締めた久遠さんは、立ち上がると部屋のなかへと進んで行く。
私も靴を脱いで「おじゃまします」と言ってからその背中を追い……広がった部屋に絶句する。
外観や通路からして、どうせ部屋もすごいんだろうなっていうのは予想できていたのに、久遠さんの部屋はその想像を軽く上回っていた。
私の部屋がみっつ以上入るんじゃないかってほどだだっ広いリビングは、一面が窓になっていて、そこから眩しいほどの光が、レースのカーテン越しに入り込んでいる。
窓と対面する壁は一面が黒い棚になっていて、地球儀や砂時計、時計や小物関係、それとたくさんの本が並んでいた。
棚の真ん中あたりは大きくくり抜かれていて、そこに壁掛けのテレビが掛けてある。家電量販店でしか見ないような大きさだ。