眠れぬ王子の恋する場所
ブラウンの床に、黒い棚、そして黒い天井は圧巻で、思わずため息が漏れてしまう。
あまりインテリアとか興味のない私でも、ここがオシャレな空間だっていうのはわかった。
バドミントンでもできそうな広さがあるっていうのにベッドが見当たらないってことは、まだ別の部屋があるんだろう。
一体家賃はどれだけ高いんだろう……となにも言えなくなっていると、久遠さんがテレビと対面するように置いてある黒い革ソファに座る。
棚以外でいえば、ソファとその前に置いてあるガラス板のローテーブル、そして床と同じ色をした木製ダイニングテーブルが唯一の家具だった。
「久遠さん、熱があるみたいですし、きちんとベッドに横になったほうがいいですよ」
近づいて、久遠さんの前に膝をつき、顔色を確認する。
しかめられた表情はいつも通りではあるものの、やっぱり苦しそうだ。
「ちょっと失礼します」
隣に座り久遠さんのおでこに手をあて確認すると、それだけで熱いのがわかり眉を寄せた。
「計りましたか?」
「朝、一度計った」
「何度ですか?」
「38度4分」
「……やっぱり同じ風邪ですかね。熱がおそろいです」と苦笑いを浮かべながら手を離そうとすると、手首を掴まれる。
久遠さんは背もたれに寄りかかり目を閉じていた。
「おまえの手、冷たくて気持ちいいから」
ああ、気持ちいいからこのままでいろってことか……と考え、バッグのなかに入っている冷却シートを思い出す。
ここに来る前にドラッグストアーで買ってきたものだ。
私の手なんかよりも効き目があるだろうと思い、「ちょっと待っててください」と告げてからそれを取り出す。