眠れぬ王子の恋する場所
ここの空調ってどうなっているんだろうと見上げ、天井にある空調らしき空気溝に気付く。
モノを見る限りホテルとかオフィスにある感じだけど、ここはマンションだし部屋ごとにオンオフや温度設定はできるハズだ。
もう少し弱めた方がいいかもしれない。
リモコンはどこにあるんだろうとキョロキョロしていると、黙っていた久遠さんがボソボソと話し出す。
「横になんの、苦手なんだよ。なんか……誰かに襲われそうで」
目を閉じ、肘置きに寄りかかったまま、苦しそうな呼吸を繰り返す久遠さんが言った言葉に声を呑む。
〝襲われそうって、なんで……〟と考えて、ハッとした。
久遠さんが数日前話してくれたことを思い出したから。
小さい頃のお母さんとのことは、錠剤が飲めないっていうトラウマを残しただけじゃない。
久遠さんに、横になることさえ許していないんだ。
『それ以来、錠剤が飲めなくなったし、寝るのも怖くなった。錠剤は口に入れただけで苦しくなって吐き出すし、ベッドに横になっても、寝てる間にまた薬詰め込まれる気がして……たぶん、そのへんがきっかけで不眠症なんだろうな』
あれは、横になっても眠れないって意味じゃなかったんだ……。
横になるだけで苦しいって、ツラいって……そういう意味だったんだ。
それがわかり……ああ、そうかと納得する。
玄関に追加でつけたあのたくさんの鍵は、寝ている間に誰かが入ってくるかもしれないっていう恐怖心からだ。
あんなに何重もロックして、それでもこの部屋にいるのが落ち着かなくて、ホテルを転々としているのか。
マンションを借りているのに、なんでそこで暮らさないんだろうって不思議に思っていたけど、久遠さんは定住するのが怖いんだ。
そこに自分がいるって、〝誰か〟に知られるのが……。
記憶のなかのお母さんに知られるのが、怖いんだ。