眠れぬ王子の恋する場所
もう、三十歳近いっていうのに……この人は、今までずっと誰にも言えなかったせいで、頼れなかったせいで、未だにそんなことを怖がっているのか。
そう考えると、どうしょうもなく可哀想になってしまって……涙が目の奥にたまり始めてしまう。
情けないとか、いい大人が、なんてことも思う。
――でも、それよりも愛しいと思う気持ちが勝った。
「久遠さん」
「……なに。言っておくけどベッドでは寝ない――」
「私の手首を縛ってください」
おかしなことを言ったからだろう。
久遠さんが目を開け、理解できないって顔で私を見る。
「……おまえ、そういう趣味があったのか」
「馬鹿言わないでください。そんな趣味ありません」と即答してから、すっと息を吸い込み久遠さんを見つめた。
「私が久遠さんになにもできないように。久遠さんに縛ってもらったら、私はずっと玄関で誰も入ってこないかを見張ります。
久遠さんが安心して横になれるように」
久遠さんの目がわずかに見開かれたのがわかった。
「私は、久遠さんに信頼されてるとは思えないし、私がいたらきっと久遠さんは安心して眠れないでしょ? だから、危害を加えられないように拘束してください。それで……あとは頑張って寝て下さい」
例え、私をミノムシみたいにぐるぐる巻きにしたって、きっと久遠さんは安心できないんだろう。
いくら可能性を潰していったところで、過去の恐怖からは逃れられないから。
でも、私は心理的なことはわからないし、手を貸してあげることもできないから、せめて……と思い、じっと見ていると。
驚きを瞳に浮かべていた久遠さんが、困ったような顔で力なく笑った。