眠れぬ王子の恋する場所


「結局、頑張るのは俺じゃねーか」
「仕方ないでしょ。だって、久遠さん自身の問題なんだから、久遠さんが頑張らなきゃ私はなにもできませんし」

はぁ……と息をついた久遠さんが、ゆっくりと立ち上がる。

そして「仕方ねーから頑張って寝てやるよ」と言い、ふらふらと歩き始めるから、そのうしろを追う。

部屋の奥。解放されたままのドアから入ると、そこには十畳ほどの寝室があり、やっぱりもう一部屋あったのか……と思う。

布団が、足元のあたりでぐしゃっとよれている。きっと、何度も横になって寝ようとはしたんだろうっていうのがわかり……胸にじわりと痛みが広がった。

ベッドにあがった久遠さんが、上半身を起こしたままの体勢で一度止まるから、そうだ、と思いベッドサイドに片膝をつき、久遠さんに両手を突き出す。

「あ、手錠ですか――」
「あるか。そんなもん。……別にいい。おまえが襲ってくるとは思ってないし、そもそもそんな風に考えてたら、おまえが持ってきた薬なんか飲まない」

そこで一度言葉を切った久遠さんが、後ろ頭をかきながらボソリと付け足す。

「ただ、俺がいいって言うまでこの部屋にいろ」

バツが悪そうな横顔に、胸がキュッとしめつけられるのを感じながら、ゆっくりと口を開いた。

「社長が、久遠さんは大口の依頼主だからよくしてやれって。だから、私は久遠さんとの約束を破ったりはしません。
久遠さんがいいって言うまでここにいます」

見つめてくる、不安の残る瞳を見つめ、笑顔を向けた。



< 110 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop