眠れぬ王子の恋する場所
「結局、頑張るのは俺じゃねーか」
「仕方ないでしょ。だって、久遠さん自身の問題なんだから、久遠さんが頑張らなきゃ私はなにもできませんし」
はぁ……と息をついた久遠さんが、ゆっくりと立ち上がる。
そして「仕方ねーから頑張って寝てやるよ」と言い、ふらふらと歩き始めるから、そのうしろを追う。
部屋の奥。解放されたままのドアから入ると、そこには十畳ほどの寝室があり、やっぱりもう一部屋あったのか……と思う。
布団が、足元のあたりでぐしゃっとよれている。きっと、何度も横になって寝ようとはしたんだろうっていうのがわかり……胸にじわりと痛みが広がった。
ベッドにあがった久遠さんが、上半身を起こしたままの体勢で一度止まるから、そうだ、と思いベッドサイドに片膝をつき、久遠さんに両手を突き出す。
「あ、手錠ですか――」
「あるか。そんなもん。……別にいい。おまえが襲ってくるとは思ってないし、そもそもそんな風に考えてたら、おまえが持ってきた薬なんか飲まない」
そこで一度言葉を切った久遠さんが、後ろ頭をかきながらボソリと付け足す。
「ただ、俺がいいって言うまでこの部屋にいろ」
バツが悪そうな横顔に、胸がキュッとしめつけられるのを感じながら、ゆっくりと口を開いた。
「社長が、久遠さんは大口の依頼主だからよくしてやれって。だから、私は久遠さんとの約束を破ったりはしません。
久遠さんがいいって言うまでここにいます」
見つめてくる、不安の残る瞳を見つめ、笑顔を向けた。