眠れぬ王子の恋する場所
「デリバリー……ピザとかですか?」
「さすがにまだ食えない。和食にする」
「和食のデリバリーなんてあるんですか?」
お寿司なら知ってるけど……と思いながら見ていると、久遠さんは棚から一冊の雑誌を手にとりページをペラペラとめくる。
「デリバリーしてない色んな店の料理を届けるサービスがあるから。……あー、ここでいいか」
久遠さんの開いたページをのぞくと、たしかにそこには和食店の料理が並んでいた。
写真と価格が載っている。
学生のころ使っていた資料集だとかそれくらいの大きさで、ずいぶんページ数があるけれど、これ全部、お店の情報なんだろうか。
だとしたらすごい量だ。
個々のお店ではデリバリーしていないけれど、そのお店と顧客を繋ぐ職業ができたってことなのかもしれない。
うちの会社でもできるサービスかな……なんて考えてしまうのは、きっと便利屋という仕事柄だろう。
でも運ぶってだけでも取り扱うものが料理だから特別な資格がいるかもしれない、と頭を悩ませていると、久遠さんがスマホをいじり電話をし始める。
「……はい。……ああ、そうです。予算二万くらいでふたり分、適当に持ってきてもらえますか? この店の店長に久遠って名前出せば問題なく通ると思うので」
なんだか、久遠さんがきちんと敬語で話しているのが珍しくてじっと見つめてしまう。
でも、考えてみれば立場のある人だし、当たり前なんだよなぁ。
普段は私相手だから態度が悪いだけで。