眠れぬ王子の恋する場所
「……はい。それで大丈夫です。……はい。お願いします」
終わったのか、スマホを耳から離した久遠さんが、私に視線を落とし顔をしかめる。
「うっとうしい。じっと見るな」
「だって、敬語の久遠さんが新鮮だったので、つい。それより、熱を計ってみてください。薬ももう一本あるので……ああ、でも食後の方がいいかな」
そもそも、今は何時なんだろう。
薬を飲んでから何時間経ったのかを知りたくてバッグのなかからスマホを取りだし確認すると19時40分。
そりゃあ外も暗くなるはずだ……と、窓の外を眺めてから、点滅しているお知らせランプに気付く。
そういえば、久遠さんが電話がどうのって言っていた気がする。
着信を見ると、二件、社長の名前が並んでいた。
私がなにも連絡を入れずにこんな時間までオフィスに帰らないことはなかったから、気にしてくれたんだろう。
定時は十八時だし、いつもならもう仕事を終えている時間だ。
「ちょっと社長に電話していいですか? 久遠さん、その間に熱計っててください」
ソファに座り、面倒くさそうに体温計に手を伸ばす様子を確認してから、社長に電話をかける。
コールが二回鳴ったところで『佐和、おまえ何時まで仕事する気だよ』と出てすぐに言われてしまった。
「連絡もしないですみません。久遠さんの様子見てたらうっかり寝ちゃって……」
今さらだけど、仕事中だっていうのに寝るとか社会人としてどうかしてるな……と反省していると、社長が電話の向こうで真面目な声を出す。
『え、おまえ、こんな時間に寝てたら夜眠れなくならないか?』
「なんの心配してるんですか……。普通、仕事中なのに寝るってどういうことだって怒るところかと思いますけど」