眠れぬ王子の恋する場所


『普通の会社ならな。でもうちは別にいいだろ。そもそも、依頼人である久遠が許してんなら別になんでもいいし。
……あ、でも、万が一にも例え百万積まれたって寝るなよ。そこに金が発生すると問題になるから寝るならお互いの合意のもと、仕事とか関係なくタダでやれ』

明るい声で注意してくる社長に「……わかってますよ」と歯切れ悪く返事をする。

もう二度関係を持ってしまっているだけに、〝そういうこと言うのセクハラです〟なんて注意もできない。

私自身、あれが仕事だとは思わないし、最初のとき、久遠さんは〝買ってやる〟みたいなことを言ってたけど決して買われたわけじゃない。

全部、依頼とか仕事とか取っ払った上の合意で、私の意思だ。
ただ……久遠さんはどういうつもりだかわからないけど。

一度目も二度目も、当然社長には報告していないし、そこに特別な料金だって発生していない。

そのことに久遠さんだって気付いているハズなのに何も言ってこないのは、なんでだろう。

久遠さんは、私じゃなくても、なんとなくその気になったら身近にいる子に手を出すんだろうか。面倒くさくならない相手なら、誰でもいいんだろうか。

ソファに座りぼんやりとしている横顔を眺めながら、小さく息をつく。
なんだか胸が苦しい気がして。

「今、まだ久遠さんの部屋なんですけど、適当に切り上げて帰ります。寝てただけですし、残業はつけなくて大丈夫です」

寝てしまったことに後ろめたさを感じそう言うと、社長は『じゃあ、二時間だけつけとく』と電話を切った。

いつも思うけれど、社長ってあまり経営に向かない気がする。
こう、依頼人に対しては商売上手だけど、従業員に対しては甘いというか。

ブラック企業だとか、そういうニュースがよく取り上げられているっていう背景があるにしろ、ホワイトすぎるというか。

あまり気にしたことなかったけれど、きちんと黒字で回ってるんだろうか……と心配になったとき、ピピピ……と電子音が聞こえてきた。

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