眠れぬ王子の恋する場所


「何度ですか?」
「37度3分。だいぶ下がった」

「でも、夜になるとまた上がったりもしますし、しっかり休んでくださいね。あ、久遠さん。寝てる間、汗とかかいてませんか? 一度着替えます?」

本当なら、もう日も暮れて気温も少し落ち着いただろうから、空調は切って窓を開けてもいいんだろうけれど。

久遠さんは窓を開けるとかあまり好きじゃなさそうだし……と玄関の鍵の数から予想して、言うのは止める。

本当なら空気の入れ換えくらいはしたいけれど、久遠さんに無理させてまでする必要もない。

「軽くシャワーして着替える」

立ち上がってシャワーに向かう足取りは、日中よりもしっかりしていて安心する。

「そうですか。じゃあ、私はそろそろ帰り……」
「ああ、もしその間にデリバリーがきたら受け取っておけ。金、置いとくから。インターホンはそこ」

一度戻ってきた久遠さんが、棚に置いてあったお財布から一万円札を二枚取り出し、ローテーブルの上に置く。

それから、お財布を元の場所に戻し、シャワーに向かっていった後ろ姿を見て……少し心配になる。
もしも私が盗みでも働いたらどうするんだろうって。

友達である社長の部下ってところで安心しているにしても、さすがにお財布を目の前でポンと置かれるのはなんだか……無防備すぎてこっちが落ち着かない。

久遠さんは友達いないって話だし、部屋に招いたりすることもないから、ひとりのときと変わらない行動をしてしまっているだけかもしれないけれど。


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