眠れぬ王子の恋する場所
『咳き込みながら『ふざけんな、このばばぁ』って睨んだら殴られた』
『今思うとあいつ、結構やばかった。なんで結婚したのかわかんねーけど、親父が離婚したおかげで縁が切れてよかった』
蘇るのは、久遠さんがわずかな笑みと共に言った言葉。
久遠さんがあんなに落ち着いて過去の痛みを言葉にできたのは、過去から逃げていないからだ。
頑張ってきた自分をわかってるから。認めてるから。
しっかりと、向き合っているから。
じゃあ、私は……?と考え、歯をギュッとかみしめる。
逃げたままの自分を知っているから、久遠さんに少しつつかれただけで怒鳴って泣いてしまったけど……あのままでいいの?
もう終わったことだし、今さら蒸し返したって自分が苦しいだけかもしれない。
いい結果に転ぶとも思えない。
でも……私はこのままじゃ、久遠さんに堂々と顔向けできない気がする。
私自身が逃げ出したままなのに、どんな顔して久遠さんを支えたいなんて言うの?
『そうやって今までずっと逃げてきたわけか』
いつか、久遠さんに言われた言葉が頭のなかに浮かび……唇にキュッと力を込めた。