眠れぬ王子の恋する場所
会社全体で行われた飲み会で初めて話したとき、なんて優しくて穏やかな人なんだろうと思った。
当時、職場の課長に毎日グチグチと言われていた私の愚痴を、隆一は微笑みながら聞いてくれた。
『そういうこと言うんだよね。あの課長は。誰にでもそうだから気にしない方がいいとは思うけど……言われてる佐和さんは、そういうわけにもいかないよね。でも、気持ち、わかるよ』
気を遣ったような言葉と笑みに、救われた気持ちになったのを、今でもよく覚えている。
『……いえ。すみません。せっかくの席でこんな話をしてしまって』と謝った私に、隆一は『気にしなくていいよ。佐和さんの気持ちが少しでも楽になったなら俺も嬉しいし』とにっこりと表情を緩めた。
それから、社内で顔を合わせると話すようになり、初めての会話から三ヵ月が経ったころ、隆一から告白されうなづいた。
隆一は、私の前でも社内でも、とても誠実な態度をとっていて……だからだろう。私を悪く言う隆一の言葉を誰も疑うことはしなかった。
隆一が私の悪口を言い広めているのを自分の目で見るまで、私だって信じられなかったほどだ。
どうしても、隆一が私に見せる態度と合致しなくて、その光景を目の当たりにしたあとも、しばらく頭のなかが整理できなかった。
だって、隆一は私に本当に優しかったから。
お金を貸して欲しいと言われて断ったあとだって、『いや、真琴が正しいよ。ごめん。彼女の真琴にこんな話持ち出して』と申し訳なさそうに謝っていたくらいだ。
自分の思い通りにいかないからって声を荒げたり、機嫌を損ねたりしない人だった。
結局、別れ話もせずに終わってしまった関係だったなぁと思いながら見ていると、隆一はハッとし慌てたように笑顔を取り繕う。
その、紳士的な雰囲気漂う笑みを見つめた。