眠れぬ王子の恋する場所
「真琴が会社を辞めたって聞いて……我に返った。謝ろうと思って真琴の部屋に行って、合鍵で入ったとき、魔が差して、それで……。本当に悪かったと思ってる。ごめん……っ」
「……そうだったんだ」
「俺、小さい頃から周りに完璧に思われたくて、そのためにいつも完璧を演じてた。社内ではエリートでいたかったし、彼氏としても完璧でいたかった。
でも、無理してたからか、どうしても捌け口が必要で……それで……ごめん」
ギリッと音が聞こえてきそうなほどに歯を食いしばる隆一を、可哀想だとは思えなかった。
説明を聞けばわからなくはない。
本人の言う通り、隆一はいつも完璧だった。社内での振る舞いも優しさも笑顔も……全部。
今言われてみれば、無理していない方がおかしいし、きっとたくさんの無理があったんだろう。
それはわかるけど……でも、もう遅い。全部が今更だ。
「ごめん……」
頭を下げた隆一をしばらく黙って見つめ……ゆっくりと口を開いた。
もう、隆一と話し合いたいことなんてなにひとつない。でも……ひとつだけ、伝えておきたいことならあった。
「私は、隆一のこと悪く言いまわろうなんて思ってなかったよ。だって……好きだったから。
だから、無理するのが苦しいって言ってほしかった。そしたら私も一緒に考えたのに……隆一が、私の前では頑張らなくてもすむようにって、考えたのに」
付き合っていた期間。隆一が私をどう想っていたのかは知らない。
いずれお金を借りるためにって思われていたのかもしれない。
それでも……私は、ちゃんと好きだった。
「……さよなら」
なんとか微笑み、それだけ言い、背中を向けた。
「真琴っ、お金は少しずつでも返すから! 真琴の部屋に持って行くから、必ず……っ」
そう、必死の声で言う隆一を振り返りはしなかった。