眠れぬ王子の恋する場所
「心配して……あんなたくさんの鍵かけて、ここで待っててくれたんですか……」
うつむいて両手で顔を覆うと、しばらくしたあと、腕を掴まれやや強引にエレベーターの外に連れ出される。
うしろで、扉が閉まるのが音でわかった。
「鍵はひとつしかかけてない。あれ全部かけんのは、俺が部屋にいるときだけだ」
ああ、そうか……と頭の隅っこで納得する。
久遠さんは自分が部屋にいるときに誰かが入り込むってことが怖いだけで、外出しているときはそこまで心配性ではないんだろう。
むしろ、執着とか固執とかしなそうだし、外出時の鍵とか案外気にしなそうにさえ思える。
私の腕を掴んだまま前を歩く久遠さんの背中を眺めながら、ぼんやりそんなことを考える。
でも、そのうちにまた気持ちが沈んでいき……何も考えられなくなったところで、久遠さんが立ち止まった。
鍵を開けるとすぐに中に入る。そして、鍵をひとつひとつかけ、ドアガードをしたところで私と向かい合う。
無表情な瞳が真っ直ぐに私を見つめ……冷たい指先が私の頬をなでた。
「こういうとき、どうすればいいかが俺にはわからない」
そういえば、以前ホテルの部屋で私が泣いたときもそんなことを言っていたのを思い出す。
なぐさめ方がわからなくて、だから社長にホテルのサービス券を渡していたっけと。
「どうすればいい?」
涙のあとをなぞるように優しく頬を撫でる手に、そっと上から触れる。
冷たい手に頬をすり寄せ、久遠さんをじっと見つめた。
シン……としている部屋。涼しく冷えた空気が、久遠さんの体温みたいだった。
「慰めてください。対価が必要なら――」
「いらない」
即答した久遠さんが、少し迷った素振りを見せてからそっと私を抱き締める。
ぎゅっと抱き締めてくれる腕は、想像していたよりも温かくてじわりと目の奥が熱を持った。
久遠さんの肩におでこを寄せ、背中に腕を回す。
しばらくそうしていると、久遠さんが話し始める。