眠れぬ王子の恋する場所
「いつも、しっかりしてて世話焼きなくせに、たまにボロボロ泣くからどうすればいいのかわからなくて困る」
大事だとでも言わんばかりに抱きすくめられ、再度「おまえに泣かれると、困る」と告げられる。
その声と言葉に、胸がきゅうっと締め付けられた。
困っているのに〝迷惑だ〟って突き放さない優しさが嬉しかった。
きっと面倒なはずなのに、腕を緩めない久遠さんが嬉しかった。
久遠さんの身体から聞こえてくる心臓の音に耳を澄ませると、気持ちが落ち着いていくのがわかった。
ここに来るまでバラバラに散らかっていた気持ちが、ようやく整理され始める。
隆一とのことが、しっかりと過去と名前のついた箱にしまわれる。
すぅ……と深呼吸をひとつしてから、ゆっくりと口を開いた。
「さっき、元彼と話をしてきたんです。お金をとったのが元彼かどうかを、確認してきました」
掠れた声で話す私に、久遠さんは「……ふぅん」と相槌を打つ。
ぶっきらぼうに聞こえるけれど、冷たい声ではなかった。
「逃げたままだって、前、久遠さんに言われたから……きちんと向き合ってきました。このままじゃ、過去から逃げていない久遠さんと顔を合わせられないと思ったから……」
久遠さんを抱き締める腕に、ギュッと力を込める。
「ひとつ、吹っ切れました。ありがとうございました」と言ってから「迷惑かけてすみません」と謝ると。
しばらくしたあと、久遠さんが答える。
「迷惑だと思ったら、インターホン鳴らされたところで無視してる」
腕が緩み、見上げようとしたところで、覗きこまれるようにして唇が塞がれる。
ふわりと舞うような優しいキスに、やっと収まった涙が浮かんだことに気付き、そっと目を閉じた。
ぶっきらぼうな優しさが、たまらなく嬉しかった。
キスを受け入れながら、私は久遠さんが好きなのかもしれないとぼんやりと考える。
でも……裏切られるかもしれない、という不安にすぐに襲われ、そんな気持ちから目を逸らした。
まだ、誰かを信じるのは怖い。