眠れぬ王子の恋する場所


「え……あ、もしかして久遠さん、ホテル暮らしに戻るんですか? その間、ここを借りてもいいとかそういう……」

「いや、俺もしばらくここに住むけど。広さなら、ふたりで住んでも問題ないだろ」
「まぁ……それはそうですけど……」

広さなら充分すぎるほどだ。
でも、広さも会社までの距離も、最初から問題視していない。

そんなことよりも――。

「なにか問題でもあるか?」

私が納得いかない顔をしていたからだろう。不思議そうに聞かれ「だって」と口を開いた。

「久遠さん、他人と暮らすなんて無理じゃないですか?」

なにを思って同居を提案してきたのかはわからない。
でも、あんな鍵をガッチガチにかけても安心できない久遠さんが、他人と一緒に暮らせるとは思えない。

だから言うと、久遠さんは私をじっと見てわずかに顔をしかめた。

「他人とは無理だけど……おまえだから言ってるんだろ?」

〝なに言ってんだ?〟って感じの態度で言われ思わず黙る。

私だからって……。

「私なら、一緒に住んでも大丈夫なんですか……? その、気持ち的に。息苦しくなったり、いつもしているうたた寝もできなくなったりとかしませんか?」

久遠さんはいつか、他人の気配がダメだって言っていた。

今までは、一緒にいたって半日くらいだったし、仕事っていう名目があったから、私の存在を久遠さんも気にしていないのかなって思っていたけど、一緒に住むってなったら全然違う。

私生活を同じ空間でするなんて、久遠さんにとっては苦痛でしかないんじゃないだろうか。

社長も吉井さんも、いくら恋人だとしても長時間一緒にはいたくないって言うくらいだし、久遠さんなんてもっとそういうところに敏感そうだ。

でも、私のそんな心配を、久遠さんは〝馬鹿馬鹿しい〟とでも言いたそうな顔で否定した。



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