眠れぬ王子の恋する場所
「息苦しくなるようなら、会った初日に追い返してるし、看病にこられたところで部屋に入れない。普通に考えて、自分が弱ってるときに、自分にとって害があるようなヤツなんかの相手しないだろ」
「それは……そうかもしれないですけど」
「それに、睡眠不足については、おまえがいた方がたぶん、改善される」
目を伏せた久遠さんがコーヒーカップに手を伸ばす。
その様子をぼんやりしながら見ているとチラッとだけ視線を向けられ、ドキッと胸が弾んだ。
「おまえがいると、少し眠れるから。俺にとってもちょうどいい」
「……でも、一緒に暮らすってなると色々面倒かもしれませんよ? わがままな久遠さんにはやっぱり苦痛かもしれな……」
「ごちゃごちゃうるせーな」
不機嫌そうな声と表情に、むっとして口を尖らせていると。
「俺がいいって言ってんだから、黙ってここに住めばいいだろ。……まぁ、おまえが嫌だって言うなら、いいけど」
最後、不貞腐れたように言われてしまい……用意していた文句を飲みこんでしまう。
こんな言い方は……ズルい。
だって私は久遠さんのこういうところに弱いのに……こんな、素直になれないこどもみたいな口調はズルい。
正直、隆一を警戒して部屋まで移る必要はないとも思うけれど、今の久遠さんの一言に何も言えなくなってしまった。
ぎゅうっと胸を鷲掴みされたような気分になり、はぁ……と息を吐き出す。
それからジトッとした目つきで久遠さんを見た。
「あとから文句言うとかなしですからね」
わずかにホッとしたような顔つきになった久遠さんに、心のなかで〝やっぱりズルい〟と文句を言い、白いカップに手を伸ばした。