眠れぬ王子の恋する場所
同居といっても一時的なものだし……と考え、最低限の荷物だけ移させてもらうことにした。
でも、さすがに旅行鞄ひとつにまとまった荷物を見た時には不安になってしまった。
詰め込んだのは、服を五日分と、メイク道具や髪のアイロンくらいだけど……まぁ、足りないものがあれば取りに帰ればいいだけの話だし、とりあえずはこれだけでいいやと割り切る。
『今日から来れば。荷物運び出すのに人出が必要なら手配してやるけど』
いつから久遠さんの部屋に移ろうかと考えていたら、当然のようにそう言われてしまい、結局今日の夜からお世話になることになった。
久遠さんは数人手伝いに寄こすとか言っていたけれど、必要ないと止めた。
本当の引っ越しでもないし、家電や家具を動かすわけでもない。私ひとりで充分だ。
夜、旅行鞄を持ってインターホンを押すと、久遠さんが迎えてくれた。
とりあえず、『よろしくお願いします』とペコリと頭を下げると、バツの悪そうな顔を返されたけど、たぶん、どんな返答をしたらいいのかがわからなかったんだろう。
後ろ頭をかきながら『好きに過ごせばいいから』と言われ、『ありがとうございます』と笑顔で答えた。
それから、久遠さんがデリバリーで頼んでくれていたパスタを食べて、お風呂を借りて……気付けば時計は二十二時を過ぎていた。
久遠さんがシャワーを浴びている間に、旅行鞄のなかのものを整理しようとチャックを開ける。