眠れぬ王子の恋する場所
『荷物、クローゼットに適当に入れていいから』という、久遠さんの言葉に甘えることにする。
寝室に旅行鞄を持ち込み、クローゼットを開ける。
大きなクローゼットには、当然ながら久遠さんの服や荷物が入っているのだけど……その量も少なくて、まぁ久遠さんらしいなぁとも思うし、服とかこれだけで大丈夫なのかなっていう心配も感じた。
やっぱり、あまり執着がないタイプなんだろうなぁと、がらんとしているクローゼット内を見ながら思う。
ハンガーにかかっている服はスーツやYシャツ以外にも、普段着として着るようなラフなものも何枚か見受けられる。
その大体がシンプルなもので、久遠さんならオシャレに着こなせそうだけど、残念ながらYシャツ姿しか見たことがない。
久遠さんがあまりにいつもYシャツ姿だから、いつか社長に聞いてみたら、社長もここ五年くらいはそれ以外見たことがないって話していた。
『仕事柄、急に呼び出しがあったりもするらしいんだよ。で、そんときにわざわざ着替えるのが嫌なんだって言ってた』
たしかに、いつ呼び出されるかわからないような仕事内容なら、最初から仕事着でいたほうが落ち着くかもしれない。
私が一緒にいる間は、たまたま呼び出しがないだけで、ちょこちょこ呼び出しはあるって社長に聞いたし。
ホテルのレストランの天井のデザインを変えるときなんかは、ずっとそこにつきっきりでいることもあるって話だった。
久遠さんが直接工事を行うわけではないけれど、進捗具合の確認だとか、クリエイター側のイメージ通りの出来上がりになりそうかだとか、そういった確認や仲介も仕事の内だってことだった。