眠れぬ王子の恋する場所


〝御曹司〟なんて社長は言ってたけど、久遠さんのしていることは割と現場的に思える。

〝社長〟って単語から、高そうな椅子にふんぞり返って接待ばかり受けていそうなイメージを持つのは間違いかもしれない。

考えてみればうちの社長だってフットワーク軽く動き回っているし、実際の御曹司だって地に足をつけた仕事をしているのかもしれない。

久遠さんは態度こそ自分勝手な部分があるけれど、言うことも割としっかりしているし。

『金が絡んで狂うのは、俺の母親に限ったことじゃない』

そういえば、あれは久遠さんのお母さん以外にもそういう人が身近にいたってことなんだろうか。

そういう人をもっと知っているような物言いだったなぁと思い、久遠さんの周りにはそんなにもたくさん、お金目当ての人がいたのかな、と胸が苦しくなっていたとき。

久遠さんが頭にかぶったタオルで髪をガシガシと拭きながらリビングに戻ってくる。

白いTシャツに紺色のジャージという寝間着姿と濡れ髪に、心臓が跳ね上がるから慌てて抑えつけた。

なんだかやたらと色っぽく見えてしまって、目を逸らしながら言う。

「久遠さん、髪、ドライヤーで乾かさないと風邪ぶり返しちゃいますよ」

洗面所には、ナノイオンの発生するタイプのいいドライヤーが置いてあったのに、なんでしっかり乾かしてこないんだろう。

使わせてもらったけど、風量もすごかったし、あれならすぐ乾かせるのに。
そう思い注意すると、久遠さんは面倒くさそうな声を出す。


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