眠れぬ王子の恋する場所
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「……あの。落ち着かないんですけど」
ドライヤーを済ませ、そろそろ寝るかという話になったのはいいけれど。
ベッドはひとつしかないし、当然ながら一緒に眠ることになった。
もう二回関係を持っているとは言え、やっぱり緊張はするもので、ドキドキと八割の不安と二割の期待を抱きながら久遠さんに背中を向けて横になっていると、もぞもぞと動く手に抱き締められた。
性的とか、そういう意味合いの籠ったものじゃなくて、ただ暖をとるためだとかいう感じに近い。
私を後ろから抱き締めると、久遠さんは私の肩のあたりにおでこをつけ、そこで動きを止めた。
どうやらこの体勢で寝るらしい……と判断して〝落ち着かない〟と抗議すると少ししてから答えが返ってきた。
「へぇ」
……返事になっていない。
それほど遠回しではなく、やめてほしいと伝えたつもりだったけれど、ちっともわかってもらえなかったらしい。
それとも、わかってて『へぇ』なのか。
真っ暗の部屋には、レースのカーテン越しに月の明かりが入り込んできていた。
私が使っているものよりもずっと弾力のあるベッドは、まるで新品みたいにふかふかだった。
久遠さんがこのベッドを買ってからどれくらい経つのかはわからない。
眠れない久遠さんが、どんな気持ちでこのベッドを買ったのかも、わからない。
きっと苦しいはずなのに弱音を吐かない久遠さんを想うと、どうしょうもなく泣きたくなるから、そっと目を閉じた。
背中越しに聞こえてくる、久遠さんの心臓の音。
規則的に上下する胸。
しがみついているんだか、包み込んでいるんだかよくわからない腕。
私よりも、少し低い体温。
そういうもの全部を守ってあげたいと思うこの気持ちは、もう、どんなに違うと否定したところで、ただの世話焼きって性格だけじゃ収まらない気がした。