眠れぬ王子の恋する場所
「でも、自宅をずっと留守にして放っておいても心配だろ。あまり深い意味はないんじゃねーの」
「まぁ……そうですかね」
「それに、金持ちのすることってわかんねーし」
「……そうですね」
ガシガシと後ろ頭をかく社長に、まぁ、そんなものかもしれないと納得する。
久遠さんの考えていることはあまりよくわからないし、私が頭を悩ませていても仕方ないのかもしれない。
「私、見回りの仕事があるから出ますねー。お昼外で済ませてから戻りますのでー。じゃ、いってきまーす」
カタン、と席を立った石坂さんが、ひらひらと手を振りながらドアに向かって歩いて行く。
「あ、いってらっしゃい」と慌てて言うと、社長も「おー。頼むわー」と続いた。
バタンとドアが閉まるのを見てから「見回りの仕事って?」と社長に聞く。
最近、久遠さんのところに行ってばかりだからか、知らない仕事内容だった。
「あー、まぁ、駅の周りとかを適当に」
煙草に火をつけた社長が、椅子の背もたれに背中を預けながら答えるから、首を傾げる。
「駅の周りを適当にって……依頼主は地元の自治会とかですか?」
「まぁ、そんなとこだな。ほら、治安とかそういう感じで」
「……やけにふわふわした仕事の内容ですね」
治安っていうなら、石坂さんが見回るよりも社長が見回った方が絶対にいい。
そもそも、見回りを女性ひとりでってどうなんだろう……。
例え、なにか見かけたとしたって注意できないだろうし、ひとりで注意するのも危険だ。
そんな風に疑問を抱いていると、吉井さんがタブレットをいじりながら教えてくれる。
「あの人の任せられる仕事って、そんな感じのばっかだよ。してもしなくてもいいような仕事っていうか、誰が依頼してきたんだか不思議になるようなヤツばっか。見回り系とか通行人調査とか」
「へぇ……そうなんですか」
「佐和さんの抜けた穴を補填するために雇ったはずなのに、仕事らしい仕事させないし。まぁ、どういう事情があるのか知らないけど」
チラッと社長を見る吉井さんに、私も同じように視線を移すと、苦笑いを浮かべる社長と目が合った。