眠れぬ王子の恋する場所
「そう、やたらと鋭く勘ぐるなって。俺にも言えることと言えないことがあるんだよ」
「それ、なにか事情があるって言ってるようなもんですよ」
白けた眼差しで言った吉井さんが、タブレットに視線を戻しながら「それに」と続ける。
「石坂さんも様子おかしいよね。久遠財閥の御曹司の話してるのに、話に強引に入ってこないところも、テンション上げないのもおかしい」
「そういえば……そうですね」
前、ちょろっと久遠さんの名前を出しただけですごい食いつきを見せてたのに、今日はあれだけ話していてもまったくだった。
なにか事情でもあるんだろうか……。
社長に視線を移すと、社長はただ黙りなにかを考えているようだった。
口には出さないけど、そんな社長は珍しい。
「勤務時間中にホストクラブでも行ってなきゃいいけど」と、吉井さんが投げやりに言う。
「ホスト……ああ、そういえばホストクラブ通いが趣味なんでしたっけ」
最初の頃、そんな話をした記憶がある。
男の人を騙して遊んで、その上、ホストクラブ通いなんて……よっぽど男の人にちやほやされるのが好きなんだろうか。
それとも、気に入ったホストとなかなかうまくいかないから、一般男性を手玉にとって遊んで鬱憤を晴らしているんだろうか。
……どちらにしても、あまりいい趣味には思えないけれど。
でも……本当に、どうして急に久遠さんへの感心がなくなったんだろう。
「あの人、絶対貢癖あるし、そのうち問題起こしそう」
どうでもよさそうに言う吉井さんに「さすがにそれは……」と苦笑いを返す。
なんとなく漠然とした胸騒ぎを感じながら、石坂さんのデスクを見つめた。