眠れぬ王子の恋する場所
「本当は、久遠さんの自宅で一緒に暮らしてるでしょ」
突然言われ、勢いよく隣を振り向く。
会場内は照明が落とされていたけれど、隣に座る吉井さんの横顔は確認することができた。
今日の依頼は、新郎の友人役として披露宴に出席することで、吉井さんと私が任命されている。
『新婦側がやけに友人が多いし、あまりに差があると男の沽券に関わるからって新郎の親から依頼だ。
学生時代の友人かき集めても新婦と同じ人数にしかならなかったからってさ。どうしても新婦側より多く呼びたいらしい』
社長にそう説明されたときには、そんな理由で無駄にお金かけるのもどうなんだろうとは思ったけれど、人それぞれ拘る部分は違う。
新郎側からすれば、そこは譲れない部分だったんだろう。
高砂では、新郎新婦がにこやかな笑顔を浮かべている。
マイクの前では新婦側の友人スピーチが行われているところだった。
吉井さんと私も、友人の集まるテーブルの一角に座り、その様子を眺めていたときに、突然切り出された話題にうろたえてしまう。
私が久遠さんの自宅に住んでいるってことが、どうしてバレたんだろう……と考えを巡らせても答えが出ない。
だらだらと冷や汗をかきそうになりながら見つめる先で、吉井さんは視線を新郎たちに向けたまま口を開く。
いつもどおり真顔だった。