眠れぬ王子の恋する場所
「佐和さんはわかりやすいから、社長との会話の慌て様ですぐわかった。……ああ、別にバラすつもりはないから安心してくれていいよ。それに多分だけど、社長もそのへん気付いてるっぽいし」
「えっ」
「知らないふりして佐和さんに色々聞いてたのは、石坂さんに聞かせるためだったんじゃないかな。石坂さん、明らかにおかしいし、その確認っていうか、石坂さんの反応を見るために話してた気がする。
まぁ、その理由まではわからないから全部俺の憶測でしかないけど」
淡々と話す吉井さんを見て、でも、確かに……と思う。
久遠さんが社長に隠し事するとは思えない。
久遠さんが一番信頼しているのは多分、社長だ。
その社長相手に嘘はつかないだろう。
同居なんて言ったら、久遠さんと私がそういう関係だと暗に言っているようなものだ。
事実は違うにしても、周りはそういう目で見てくる。
だから、久遠さんは気を遣って、社長にも同居していることを内緒にしてくれたのかな……とも思ったけれど。
そういえば久遠さんは、そこまでデリカシーのある人じゃない。
優しい部分もあるから、事実を告げて誰かが傷つくと判断したら、躊躇するかもしれないけど、そうでもない限り事実をあけすけに話す人だ。
「でも……だとしたら、社長は、久遠さんの名前を出して、石坂さんのどんな反応を見てたんでしょうか」
久遠さんを狙うことを諦めたかどうかとか、そういうことだろうか……と考えていると、吉井さんが「考えるだけ時間の無駄だよ。どうせ俺たちだけじゃ答えなんかでないし」と、どうでもよさそうにため息を落とす。
冷静な吉井さんの横顔に、まぁ、それはその通りだな、と判断し「そうですね」とだけ返し、檀上に目を向けた。
友人スピーチが終わり、会場が拍手で包まれる。
私も拍手を送り……新郎新婦と笑顔を交わす友人を眺めてから、チラッと吉井さんに視線を移した。
吉井さんはピンクのネクタイを締めたスーツ姿、私は紺色のワンピースで出席していた。