眠れぬ王子の恋する場所


「久遠さんにしたら、窮屈なだけだと思うんですけどね。なんで同居なんて言い出したのか不思議です」

もしも本当にひとりの時間が欲しくてホテルで時間を過ごしたりしているのなら、言ってくれればいいのに……と口を尖らせる。

邪魔だって言ってくれれば出ていくのに。

新婦の友人が席に戻ると、今度は大きなケーキが登場する。

これからウエディングケーキ入刀のようで、司会の合図を待たずにカメラを構えた友人たちがケーキの周りに集まり出す。

私たちも行ったほうが自然かな、と周りを見回してみると、席を立っている人とそのまま座っている人の割合は半々くらいで、ならいいかと判断する。

「窮屈だとは思わないから誘ったんだと思うよ」

吉井さんに言われ「でも……」と眉を寄せる。

「もともとひとりで過ごすのが好きな人だと思うんです。なのに同居とか……最初から無理な話だったのに、一時的だと思って軽く提案しちゃったんですよ、たぶん。だから今、後悔してるんじゃないかと」

「そんなことないんじゃない? それに、久遠さんって嫌なことなら嫌だってすぐに言いそうじゃん。御曹司らしくわがまま三昧なんでしょ?」

わがまま三昧……とまではいかないにしても。久遠さんはたしかに明け透けだ。思ったことならなんでも口にするし、それは失礼なほど。

だとしたら……今の同居が嫌になったら言いそうなものだよなぁと思う。

〝やっぱり無理だ。出てけ〟くらいなら、普通に言えそうだ。

「それもそうですね……」
「そもそも俺だったら例え一時的だとしても、絶対に口が裂けても同居なんて言わないし。
社長の話だと、人付き合いが苦手とか以前に他人に対しての恐怖心がありそうだと思ってたけど、違うのかもね」

牛フィレ肉のソテーを口に運ぶ吉井さんに、そうなのかな……?と考える。

「まぁ……久遠さん、人に気を遣うタイプじゃないですし、自分が我慢してまで同居なんてことは言い出さないかもしれないです。……でも、他人が怖いっていうのはその通りというか、たぶん、吉井さんが想像している以上に重たいです」

「そうなの?」


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