眠れぬ王子の恋する場所
「はい。不眠症になったのも、寝ている間に誰かに苦しいことされるんじゃないかとか、そういう不安が原因みたいですし。
それが怖くて、横になることさえ嫌みたいです。玄関には、鍵がたくさん後付けされてましたし」
「鍵?」
「はい。その数がすごくて……初めて見たときはびっくりしました。見ちゃいけないものを見ちゃった気分でした」
吉井さんが手を止め、「それは結構重たいかもね」と眉間にシワを寄せるからうなづいた。
「病院に行けばいくつも病名がつくんじゃないかなってくらいに苦しそうなんです。なのに……久遠さんは、苦しいとかツラいとか、弱音を吐かない」
苦しくたってツラくたって、眠れなくたって、ひとりで耐えているだけだ。
「私は、それが嫌なんです」
もっと頼って欲しい。仕事とか関係なく。
ツラいなら頭を撫でてあげたいし、苦しいなら、よしよしって背中をさすってあげたい。
眠れないなら手をつないで夢みたいなお伽話をしてあげたい。
過去が襲ってくるのなら、隣で一緒に耐えてあげたい。
会場が、わぁ……という歓声に包まれ顔を上げると、ケーキ入刀が終わり、新郎新婦がお互いにケーキを食べさせているところだった。
フラッシュがこれでもかってほどにたかれている。
幸せいっぱいのふたりをぼんやりと眺めていると、隣で吉井さんが「佐和さんはお人よしだし、世話焼きだからね」と話し出す。
「だから、どんなに頑張ったところで〝誰も信じない〟なんて無理なんだよ。情が深いから、すぐ信じて騙されるタイプだし」
自分がそこまでお人よしだとは思わない。
それでも、違うとも否定できずにいると吉井さんが続ける。