眠れぬ王子の恋する場所
「そういう部分に、久遠さんはたぶん、安心してるんだと思うよ」
「……安心?」
「見返りを求めない優しさっていうか。佐和さんの世話焼きってそういう感じだし。
食事の心配とか水分補給がどうのとか、ちゃんとしないと風邪ひくとか。そういう心配を無条件にしてくれるのって嬉しいもんだから」
照明が落とされているなか、来賓のカメラのフラッシュが次々に光る。
そんな様子を眺めていた吉井さんがこちらを向き、ゆっくりと視線を合わせた。
「鍵ガチガチにかけてるような久遠さんが、自宅に一緒に住ませるってよほどでしょ。だったら佐和さんもゴチャゴチャ考えてないで一歩踏み出してもいいと思うけど。
騙されるのが怖いなんて言ってるけどさ、誰かを信じるのを諦めてる人だったら、他人の弱音なんか聞きたいとは思わないし、一緒に苦しみたいなんて望まないでしょ」
私の気持ちを見透かすような吉井さんの瞳に、目が泳いでしまう。
吉井さんの言ったとおりだとも思う。
信じて踏み込むのは怖いって二の足踏んでるくせに、久遠さんの痛みは共有したいだとか、私の言っていることは矛盾してる。
本当は、答えなんか出てるんじゃないの?
放っておきたくないって、傷ついて欲しくないってこんなにも望んでいる時点で、私は――。
目を伏せたまま、答えを口には出せない私を見ていた吉井さんが「ごめん。追い詰めるつもりはなかったんだけど」と謝るから、慌てて首を振った。
「いえ。吉井さんの言う通りです。ただ……私にまだ勇気がないだけで」
言い訳みたいだな……と思い、自己嫌悪に陥っていると、吉井さんが言う。