眠れぬ王子の恋する場所


久遠さんに傷つけるようなことされたって、まぁ、仕事上の関係なんだし、特別な関係じゃないし……って逃げ道があるから。

そういう予防線をなくすのが、吉井さんの言う〝一歩〟なんだろうし、私自身もそう思う。

久遠さんには、なんだかんだでよくしてもらっている。
でも……だからこそ、信じ切って裏切られたら傷つく。

久遠さんが、私をどういう意味で気に入って同居とまで言い出してくれたのかはわからない。

だけど、久遠さんの気持ちは別として、私自身がこれ以上深入りして傷つく勇気が持てないでいるのなら……痛手になる前に、自分から離れた方がいいのかもしれない。


「あの……いえ、やっぱりもういいです」

お風呂を済ませてリビングに戻ると、久遠さんに手招きされて、そのままベッドに横になった。

当たり前のように後ろから抱き締められて、それを注意しようとしてやめる。

聞いたところ、久遠さんはこうして横になったら、いつもよりも眠ることができたらしい。

それは喜ばしいことだし、それが続いて、安心して眠れるのが癖になれば不眠症も徐々に改善される。

だから、まぁ……若干寝心地が悪いなんていう私の私情は伝えるべきじゃないなと判断した。

……言ったところで、久遠さんはどうせ〝へぇ〟とか〝それが?〟とかいう返事しかしないだろうけれど。

すり……と私の肩におでこを擦りつける久遠さんに、人肌があると安心できるのかなぁと考える。

完全に抱き枕代わりだけど、こうして近づいてくるってことは、ここにいても迷惑だとは思ってないのかな……。

今日、披露宴会場で感じた不安は私の考えすぎだったのかな、とこっそり胸を撫で下ろしてから……お腹に回っている久遠さんの腕を眺める。



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