眠れぬ王子の恋する場所


久遠さんは少し、母性を求めているようなところがある気もするし、子どもの頃からずっと不足しっぱなしの部分を補填しようとしているのかもしれない。

今まで、こうして誰かと一緒に寝たことってないのかな。

久遠さん、不健康そうだけど美形だし、周りの女の人が放っておかなそうなのに……。

本当に今まで、社長以外で親しくなった人っていないんだろうか。

「久遠さんは、今まで誰も信じずにきたんですか?」

ベッドのヘッド部分にあるライトしかついていない寝室。

ぼんやりとしたオレンジ色の間接照明が、弱く柔らかい明かりでシーツのシワを浮かばせる。

私のお腹のあたりに手を回したまま、久遠さんは規則正しい呼吸を繰り返していた。

「そうでもない。三ノ宮とか……おまえとか。傍においてるヤツのことは信用してる」

『信用してる』なんて、あっさりと言われて驚く。

だって……小さい頃、お母さんから与えられたトラウマがあるのに、それでも信じてるなんて……。

私自身、まったく信用されていないと思っていたわけじゃない。
久遠さんと接するなかで、そこそこ気を許されてるのかなとは思っていた。

でも、それをこうも簡単に、久遠さんが言葉にして認めるなんて思わなかった。
私よりも何倍もツラいトラウマを持つ久遠さんが、まさか〝信じてる〟なんて……。

驚いてなにも言えなくなった私の考えを見透かしたみたいに、久遠さんが続ける。
落ち着いた声だった。



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