眠れぬ王子の恋する場所


「おまえが考えてる通り、色々思うことはあるけど。だから、なんて言うか……信じるとかそういう感情より、諦めてる」

「……諦めてる?」
「あー……一方的って言った方が近いかもしれない。見返りとか、そんなのは最初から期待してない。
だから、おまえとか三ノ宮が、笑ってられればいいと思ってるだけ。俺と関係ない場所でも、そいつらが幸せならそれでいい」

私の肩越しの言葉に、衝撃を受けた。
思いきり叩かれたような感覚に、グッと唇を引き結んだ。

私は……やっぱり嫌だ。久遠さんがこんな風に諦めているのは、嫌だ。

もっとちゃんと望んで欲しい――。

「もう寝ろ」
「……はい。おやすみなさい」

久遠さんの穏やかな呼吸を背中で感じながら、私もそっと目を閉じた。



――電話の音で目が覚めた。

ふっと目を開けると、隣で久遠さんがのそりと上半身を起こす。

それから枕元に置いてあった携帯を手に取り、画面を確認してから耳に当てる。

「……ああ。……へぇ。わかった。……いや、普通に寝てた」

掠れた声で返事をする久遠さんの声を聞きながら、私も起き上がる。

時計を確認すると、七時二十分。
今日は日曜日だから私も久遠さんもお休みの予定だった。

こんな早くから電話なんて、急な仕事でも入ったのだろうか。



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