眠れぬ王子の恋する場所
ぼんやりとしながら横顔を眺めていると、私の視線に気付いた久遠さんが手を伸ばし、〝見るな〟とでも言いたそうに私の頭をぐいっと押しのけてくる。
「わかった。すぐ出る」
そして、電話を切るとベッドから下りていく。
「おはようございます。……眠れましたか?」
一緒に暮らしてから、毎朝の確認事項のようになってしまったなぁと思いながらも気になり聞くと、久遠さんはクローゼットを開けながら答える。
遮光性の高いカーテンからは、わずかな朝日しか入り込んできていなかった。
「ああ。おまえ体温高いし」
どれくらい眠れたかはわからないけれど、それなりには眠れたんだろうと判断して私もベッドから下りる。
「私が高いんじゃなくて、久遠さんが低いんですよ。布団に入っていても、私しばらく寒いですし」
「へぇ。大変だな」
「他人事だと思って……まぁ、いいですけど。それより、これから出るんですか?」
久遠さんがクローゼットの中から出したYシャツを見て聞く。
「カーテン開けますよ」と声をかけてからカーテンを開けると、夏の眩しい朝日が部屋中に入り込み、隙間なく照らす。
こうして、朝日を浴びるのも不眠症にはいいらしいから、久遠さんのところでお世話になるようになってから毎朝していることだった。
振り向くと、クローゼットの前にいる久遠さんの背中にもしっかりと太陽光が届いていて、よしよしと笑みを零す。