眠れぬ王子の恋する場所


それからふと、そんな自分に気付き……本当に、ここまで世話好きじゃなかったんだけどな、と苦笑いを浮かべた。

「少しだけ出てくる。おまえは休みだろ」
「はい」
「じゃあ……そうだな、たぶん、一時間もすれば片付くから朝飯はそれからにする」

着替えを持って洗面所に向かう後ろ姿に「じゃあ、作って待ってますね」と言うと、「ん」と短くうなづかれた。

最初のほうは、食材もなかったし、久遠さんの生活スタイルもよくわからなかったから食事を作ったりはしなかった。

でも、一度作ってみたら、久遠さんは『……おまえが作ったのか?』と、まるで信じられないとでも言いたそうに顔をしかめながらも、きちんと食べてくれた。

食事が終わったあとで、『買ったものばかりだと食費もかさむし、自炊しようと思うんですが……久遠さんのぶんも作ったら食べますか?』と聞いてみたら、意外にも久遠さんはううなづいて、それから作るようになった。

高いものばかり食べているんだろうし、きっとケチつけられるんだろうなぁと覚悟の上で作った食事だったけれど、久遠さんが文句を言ったことは一度もない。

『お口に合いますか?』と聞いても『まぁまぁなんじゃねーの』という、いいんだか悪いんだかわからないような答えしか返ってこない。

でも、完食してくれるし、マズくはないのかな、と勝手に思っている。

私の帰りが遅くなっても、久遠さんは食事を済ませずにいてくれるから、嫌がってはいないんだろう。

規則正しい食生活は不眠症にもいいハズだし、いい傾向だ。

リビングのカーテンも開けてから、寝室に戻りクローゼットから服を取り出す。

それから、ベッドの布団を直していると、着替え終わった久遠さんがリビングに顔を出し「行ってくる」と声をかけた。


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