眠れぬ王子の恋する場所
「あ、はい。いってらっしゃい。気を付けて」
「ん」
玄関先で久遠さんを見送ってから、私も着替えを済ませて、ふたり分のパジャマを洗濯機に入れスイッチを入れる。
久遠さんは浴室乾燥をしていたみたいだけど、一緒に住むようになってからは外干しに変えた。
こんなに日当たりがいいのに、外に干さないなんて電気代とかいろんな意味でもったいない。
久遠さんも乾けばなんでもよさそうだし、文句も言われないからいいんだろう。
一緒に住み始めてから気付いたけれど。
私は結構、順応性が高いのかもしれない。
こんなオシャレな部屋に住むとか無理だと最初こそ思ったけれど、住んでしまえばすぐに慣れて、今は住みやすくすら感じている。
久遠さんは散らかしたりしないし、家事だって私の好きにさせてくれるから居心地がいい。
まぁ……それは、順応性が高いとかじゃなくて、ただ単に、久遠さんとの生活が私に合うってだけなのかもしれないけれど。
そう考え……カーッと頬が熱を持つ。
「はぁー……」
その場にしゃがみ込み、ゴウンゴウンと回る洗濯機を眺めた。
久遠さんといると、心地がいい。
向こうが気を遣わない分、私も変に気負わなくて済んだり、気楽でいい。
なんていうか……パズルのピースがぴったりと合うような、そんな感じだ。
どこも余っていなくて、どこも窮屈じゃなくて、日々の暮らしがぴったりで気持ちがいい。
久遠さんはああいう人だから、たまに衝突もするけど……それを面倒だとかそんな風にも思わないから、よほど合うんだろう。
――久遠さんがどう思っているかは別として。
泡立ち、グルグル回る洗濯機の中を見つめながら、ひとつため息をつく。
「一緒になんて暮らさなければ、気付かなかったのになぁ……」
ぽつりと独り言をもらしたあと、目を伏せる。
まだ、傷つきたくないのに。
拒否されて、泣きたくないのに――。
膝をギュッと抱えていたとき、ピンポーンとインターホンの音が部屋に響いた。