眠れぬ王子の恋する場所
……久遠さんが、なにか忘れ物をして戻ってきたんだろうか、と立ち上がり、インターホンの画面を覗く。
そして……驚いた。
画面に映っていたのは、石坂さんだったから。
後ろの景色からして、エントランス前ではなく、家の前にいるみたいだった。
きっと、エントランスのドアは他の住人がロックを解除したときにでもすり抜けたんだろう。
でも……石坂さんがどうして……。
今日は会社だって休みだし、社長に頼まれごとをして訪ねてきただとか、そういうわけではないハズだ。
それに、久遠さんのこととなると目の色を変える石坂さんを、社長は警戒していたみたいだし、そんな石坂さんにここの住所を教えたりしないと思う。
だとしたら……なんでここがわかったんだろう。
疑問がグルグルと回る。
頭の中が、まるでさっきまで眺めていた洗濯機みたいになって混乱していると、時間が経ったせいで画面が消える。
でもすぐにもう一度インターホンが鳴り、画面がパッと点灯する。
石坂さんは、久遠さんが部屋にいると確信しているのか、インターホンの画面が消えるたびに呼び出すという動作を何度も繰り返していた。
執拗なその行為に、少しの恐怖を感じながらも、私が勝手に出るわけにはいかない。
ここで久遠さんと一緒に暮らしていることを、石坂さんは知らないハズだから。
「まぁ……そのうち諦めて帰るかな」
あまりピンポンピンポンされるのも嫌だけど、仕方ない。
そう諦め、インターホンの前から移動しようとすると、今度は携帯が鳴る。
このマンションはきっと防音性も最高標準なんだろうし、音が廊下までもれるなんてことはないだろうけれど、ソファの上に置きっぱなしになっている携帯を、慌ててとりに走る。
バタバタと足音が立たないようにと気を付けて走り、携帯を手に取る。
それから画面を確認して……息を呑んだ。
着信は、石坂さんからだった。