眠れぬ王子の恋する場所
「すみません。出しゃばりすぎました」
また眉間にシワが刻まれてしまっただろうか……と思いながら見ると、久遠さんは意外にも険しい顔をしていなかった。
ただ真っ直ぐに見つめられて、こっちが顔をしかめてしまいそうになる。
久遠さんの感情が読めずに戸惑っていると、「調べたのか?」と言われ、一拍おいてからうなづいた。
主語がないから一瞬わからなかったけど、多分、不眠症のことだろう。
「久遠さんが寝ちゃったのでどうしようかと三ノ宮社長に電話したら、不眠症だって聞いて……パズルも終わったし、暇だったので軽く調べました。不快だったらすみません」
不眠症だって久遠さんから直接聞かされたわけでもないし、その上、興味本位で自分の病気について調べられたら、あまりおもしろくはないかもしれない。
だから謝ると、久遠さんは「……別に」と言い、目を伏せた。
「病気とか……特に、精神的なモンからくる病気なんか、周りから面倒がられるだけだろ。なのに世話焼いてくるから、変わった女だと思っただけ」
ぼそぼそと覇気のない声で言われ、首を傾げる。
久遠さんの物憂げな横顔をぼんやり眺めて……なんとなく、社長の気持ちがわかった気がした。
三十手前の男の様子を見に行けなんて言われたときには、どういうことだって思ったけど……放っておけない感じがする。
言葉も態度もトゲトゲしたものばっかり向けてくるくせに、ふと見せる表情がまるで子どもみたいに見えるのはなんでだろう。
身体だって大きいし、顔立ちだっていくら若く見えるとはいえ、しっかりとした大人なのに。
私が入れたお茶を、ず……っと飲む久遠さんに、呆れ笑いに似たため息を落とした。