眠れぬ王子の恋する場所
「会社に、久遠さんみたいに生活力のない人がいるんです。その人、放っておくとご飯も食べないのでついつい口うるさく言ったり、自分のご飯をわけたりしてたら、すっかり世話焼きになっちゃったみたいです」
元彼のことがあって、他人なんてどうでもいい、絶対に信じたりするもんか、と心に決めてたっていうのに、吉井さんのせいで。
そう思い苦笑いをこぼすと、久遠さんに「そいつって、男?」と聞かれたからうなづいた。
「はい。久遠さんよりは年下ですけど、いい大人なのに体調管理ができなくて、無気力だし無表情だし、注意してもなにも響かない感じの……」
言い終わる前に手首を掴まれ驚く。
なにかと思って目を向けると、無表情な瞳があって……射抜かれたような衝撃を受けた。
なにも感情の浮かんでいない、ビー玉みたいな瞳。
それなのに、なにかを強く訴えているように……求めているように思えて、目が離せなかった。
「え……あの……?」
ぐるりと回る景色が、まるでスローモーションみたいに映った。
トン、と背中がなにかにあたり、それが床だと気付き……同時に、押し倒されたことにも気付く。
「急になにするんですか……っ」
さすがに我に返り見上げた先で、久遠さんはじっと私を見下ろしていた。
顔の横でそれぞれ押さえつけられている手が冷たくて、チラッとそこに視線を移す。
節くれだった指は驚くほど体温が低くて、押し倒された状態だっていうのに思わず凝視してしまう。
私だって冷え症でそこそこ冷たいはずなのに……久遠さんの指はもっと冷たかった。
不眠症なんて聞いたせいでひ弱なイメージがついてしまっているのか、男性らしい節くれだった指を意外に感じてしまう。