眠れぬ王子の恋する場所
実際、久遠さんは不健康そうだけど決して華奢ではないし、むしろ男らしくガッシリとした身体つきをしているのに……。
こんな風に押さえつけられたら、身動きひとつとれないほどなのに。
なにもかも圧倒的に不利なこの状況で、どうしてこの人に怖さを感じないんだろう。
揺れずに真っ直ぐに私を見下ろす無表情な瞳。
そこに浮かぶ寂しさに似た感情の理由を知りたいって気持ちが、恐怖よりも勝っていた。
『病気とか……特に、精神的なモンからくる病気なんか、周りから面倒がられるだけだろ。なのに世話焼いてくるから、変わった女だと思っただけ』
さっき、そう言っていたときの拗ねたような、どう反応したらいいのか迷っているような、まるで子どもみたいな表情を思い出す。
その時にも感じたけれど……私はたぶん、この人に弱い。
美形だからとか、御曹司だからとか、そういう上っ面の話じゃなくて……この人の弱さとか脆さとか、そういうものの端っこが見えるたびに放っておきたくなくなってしまう。
口も態度も悪い、こんなヤツが相手なのに……。
思いきり手を振り払って、二、三発殴ったあと、回し蹴りでもくらわせて脱出するのが正解だって思うのに。
なんでだか……本当に、なんでだか、そんな気になれなかった。
「手が、冷たいんですけど」
目を合わせたまま静かに言うと、久遠さんはチラッと私を押さえつけている手に視線をやった。
「そうか? こんなもんだろ。おまえも似たようなもんだし」
「私だって冷え症で冷たい方なのにそれより冷たいってよほどですよ」
自分のことなのに、まるで他人事みたいに関心なさそうに言う久遠さんに呆れた声で返してから「それで、この体勢はなんでしょうか」と聞く。