眠れぬ王子の恋する場所


「まぁ、あいつの場合は昔色々あったし。その上、神経質だから」

〝昔〟という言葉に引っ掛かり黙ると、社長が「で、元気だったか?」と視線をチラッと移すから答える。

「元気ではなさそうでした。顔色は悪かったし、機嫌というか性格も悪かったですし」
「じゃあいつも通りだな。顔色も機嫌も性格も中学からずっと悪いから問題なしだ」

笑って言う社長に、問題ありなんじゃないかな……と思いながらも、そうとは言わずにおく。

「……そうですか。ところで、社長の方は昨日、どうでした? 大学生に怒鳴り込み」

毎晩騒ぐ大学生に注意して欲しいっていう依頼だったはずだけど、上手くいったのだろうか。

聞くと「ああ」と社長が笑う。

「案外すんなりだったな。あれくらいのガキって聞き分け悪いから面倒くせーなって内心思ってたけど、なんて注意するか考えながらじっと見てたら勝手に震え出してさ。
〝もう少し静かに遊べるよな?〟ってひとこと言ったら深々と頭下げて謝られた」

「……その絵が浮かぶようです」
「まぁ、そんな感じで無事終了。依頼人にもすげー感謝されたし、相当びびってたからもう大学生もあの部屋じゃ騒がねーだろ」
「ですね」

ノートパソコンを開き、電源を入れる。
独特の起動音を立てたパソコンの液晶画面が明るくなり、仕事の始まりを教える。

「報告書、あとで下さいね」

仕事の実績はすべてホームページに載せている。

『うちみたいな小さな会社の場合、実績載せとかねーと誰も信頼しないからな。で、信頼されなきゃ仕事も入ってこない』

社長にそう言われ、なるほど……と思った。
たしかに、ネットで見つけた小さな会社に仕事を頼むのは怖い。仕事の内容的にも。

でも、これまでにたくさんの依頼をこなしている……となればお客さんも背中を押されるかもしれない。



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