眠れぬ王子の恋する場所
インターホンだと出ない可能性があるって社長から聞いてたのに……。
相手を確認することもなくドアを開けた久遠さんの、その躊躇のなさに驚きながらも、ひとり、どうしようと焦っていると。
「失礼いたします。ルームサービスをお持ちしました」
そんな上品な声が聞こえてきて、あれ?と思う。
……ルームサービス?
見れば、ホテルの制服に身を包んだボーイさんがワゴンを押して入ってくるところだった。
目が合い、にこりとされる。
「突っ立ってんなよ。邪魔」
久遠さんに言われ「ああ……すみません」と呆然としたまま言い、端によける。
するとまた「そこじゃなくて。ここ座れ」と注意を飛ばされ……〝ここ〟と言われた場所に戸惑う。
久遠さんが面倒くさそうに親指で指示したのは、ふたり掛けのテーブルだった。
「え。……なんでですか?」
「見ればわかるだろ。早く座れ」
ひとりでさっさと椅子に座ってしまった久遠さんに乱暴に言われ、のろのろと足を進める。
私が座る間に、ボーイさんはたくさんの料理をテーブルに載せ終わり、最後にぺこりと頭を下げた。
「御済になりましたらお申し付けください」
そう言い残し、静かに部屋を出て行ったボーイさんをぼんやりと眺めていると、テーブルに肘をついた久遠さんが「食え」と、これまた乱暴に言ってくる。
なんとなくの流れは理解できたものの……久遠さんのあんまりの態度に苦笑いがこぼれてしまった。