眠れぬ王子の恋する場所
「あの。さっきからずいぶん偉そうに言ってきますけど。仮にもお詫びっていうならもう少ししおらしい態度を見せるべきだと思います。
……まぁ、その前に、私はべつにお詫びしてもらうようなことをされたつもりもありませんけど」
久遠さんからしたら、昨日してしまった行為へのお詫びのつもりだろう。
久遠さんは『おまえには悪いことしたし』なんて言っていたけれど、あれは決して一方的なものではなかったし、謝ってもらうようなことじゃない。
だから言うと、久遠さんは「どっちだよ」とボソッと言ってから、テーブルに視線を落とした。
「好きなもんとかわかんねーから、適当に頼んだ。もっと必要なら追加で頼むから」
ぶっきらぼうに言われ、全然素直になれない様子にやれやれと呆れて笑いながら、私もテーブルの上の料理を見る。
テーブルの真ん中。どんと大きなお皿に乗っているのは、数種類のパン。
なかでもクロワッサンはこのホテルの自慢だって、昨日、調べたサイトに載っていた。
そして、グリーンサラダに、野菜たっぷりのキッシュ。ベーコンとキノコのクリームパスタに、ベリー系がたっぷり乗っかったタルトケーキ。
見ているだけでお腹が反応するほどおいしそうな料理が並んでいて、自然と頬が緩んでいた。
「ふたりで食べきりますかね」
「大丈夫だろ。おまえ、すげー食いそう」
「たぶん、久遠さんよりは食べると思います。久遠さんの食欲って、りすと張りそうだし」
軽口を交わしながら、手を合わせて「いただきます」と言うと、久遠さんは少しバツが悪そうにしながらも小声で同じように言う。
それにこっそり笑いながら、フォークを手に取った。