眠れぬ王子の恋する場所


『こんな難しい絵眺めてるから、そんな険しい顔になっちゃうんですよ。もっと子犬とか可愛いのにすればいいのに』

あんな、なにげなく言った言葉を覚えていて、しかもわざわざ調べたの……?

驚いて口をぽかんとしたまま止まってしまった私に、久遠さんは「あ。思い出した」とわずかに口の端を上げる。

「ビーグルだ。耳がたれてるやつ」

突然向けられた微笑みに、思わず声を呑んだ。

優しい光が注ぐなか、いつもの様子からは想像できないような柔らかい表情で微笑む久遠さんは、うっかり見とれてしまうほどに魅力的で……しばらくしても言葉が出なかった。

「でも、あれはダメだろ」

そんな私には気付かずに、パスタをフォークに巻き付けながら言われ、ハッとして口を開く。

「なんでですか?」
「パズル、一回完成させたらすぐ壊すのに、あんな感じだと壊せなくなって場所とる」

もう、元に戻っている無愛想な顔でそんなことを言うものだから、おかしくなって笑ってしまった。


心配なくらい量があったルームサービスを、なんとかふたりで食べ終えたあと、そうだと思い出しバッグを漁る。

「久遠さん。お茶を入れて欲しいってことだったので、一応、持ってきたんですが……このお部屋、急須とかないですよね?」

なんだかまたティーパックで入れるのも……と思い、ここに来る途中で買ってきた茶葉を見せながら聞くと、久遠さんは驚いた様子で目をパチパチとする。




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