眠れぬ王子の恋する場所
久遠財閥っていったら、不動産業の中でも大手だしもちろんホテル経営もしている。
だとすると、そのホテルの一室を自室代わりにしていてもおかしくはないのかもしれないし……。
ホテル暮らしが当たり前なんだろうか。
そう思って聞くと、久遠さんはわずかに眉間にシワを寄せ視線を上げる。
どうやら太陽の日差しにやられているようだった。
平日の十三時過ぎの駅前には、ランチに出ているサラリーマンやOLが目立っていた。
すれ違う女性ふたり組が、久遠さんを見てキャッキャ言っているのを横目で見て、久遠さんが美形なのを思い出す。
こうして並んで歩くと背も高いし、そこにモデルみたいな顔が乗ってるんだから、女性が思わず振り返っちゃうのもわかる気がする。
「家はあるけど、落ち着かねーからほとんどホテルに泊まってる」
落ち着かないってなんでだろう……と考え首を捻る。
「家ってひとり暮らしの部屋があるってことですか?」
「まぁ、そう」
「あ、じゃあ、身の回りのことができないから、ホテルみたいな場所じゃないと暮らせないとか?」
久遠さんって基本、家事とかできなそうだし、やらなそうだ。
そう思い聞くと「それもあるけど」と返される。
「ひとりの部屋って落ち着かないんだよ。他人の気配に敏感になるっていうか、そんな感じで。でも、ホテルなら、他人がいて当たり前だから」
「え……それはホラー的な……?」
ひとり暮らししてる部屋なのに人の気配がするとか、怖い。
思わず眉を潜めると、久遠さんはそんな私に呆れたような眼差しを向けたあと「そういうオカルト的なことじゃない」と否定した。