眠れぬ王子の恋する場所
「あ、ならよかったです。でも、他人の気配がダメって……家族でもダメなんですか?」
小さい頃から一緒なら、家族だけは別に思えるけど……と不思議になり聞いた私に、久遠さんは少し黙ってから「ダメ」と短く答えた。
いつも通りの無表情な横顔にわずかな感情が混ざった気がして引っかかったけれど。
なんとなく触れられたくないことのような気がして話題を変える。
「久遠さんは歩くのがゆっくりだから並んで歩いてても楽です。これが社長だと、もともとのリーチが違うのにスタスタ歩かれちゃうから追いかけるのが大変で」
共通の話題……と思い、社長の話を出すと、久遠さんは私に横目をくれてから「あいつ、中学ん時から歩くの速いんだよな」と言う。
「へぇ。中学ってほとんど学ランですよね? なんか社長、強面だし学ラン似合わなそう……」
「学校でぶっちぎりで似合ってなかった。あいつ、もともと老け顔だからな。中学ん時から今みたいな顔だったし。やっと顔に歳が追いついた感じ」
ふたりで社長のことを散々に言いながら、たまに笑って歩く。
そして、駅のなかにある百均についたところで、「ここです」と指さし店内に進む。
駅中にある店舗だしそこまで大きくはない。
それでも食器のコーナーに行くと急須が置かれていて、よかったと安心しながらそれを手にとった。